うつろい

まるで統一感のない日常のエトセトラ。へっぽこ人生。

【映画感想】ある天文学者の恋文

以前『鑑定士と顔のない依頼人』を観てとても気に入ったので監督追い。

名前は、ジュゼッペ・トルナトーレ監督

取んのか取らんのかどっちやねーん!てね。

 

『ある天文学者の恋文』を観ました。

あらすじ

著名な天文学者エドと彼の教え子エイミーは、皆には秘密の恋を謳歌していた。しかし、そんなエイミーの元に突然届いたエドの訃報。現実を受け入れられないエイミーだが、彼女の元にはその後もエドからの優しさとユーモアにあふれた手紙やメールや贈り物が届き続ける。エドの遺した謎を解き明かそうと、エイミーは彼が暮らしていたエディンバラや、かつて二人で時間を過ごしたイタリア湖水地方のサン・ジュリオ島などを辿りはじめ、そこで彼女が誰にも言えずに封印していた過去を、エドが密かに調べていたことを知るが―。

 

このジャケットと予告編だけじゃ絶対見なかった。

あらすじと予告編で「あ~P.S.アイラブユーみたいな感じのお涙頂戴系ね」としか思えなかった。それがお涙頂戴系だったのかはわからないけど、PSアイラブユーは開始1時間くらいで寝落ちた。

でもね、あの『鑑定士と顔のない依頼人』のジュゼッペ・トルナトーレ監督ですよ。

きっと何か、惹きつけられる美しさがあるはずだ…と期待を持たざるを得なかった。

 

※以下ネタバレありの感想

秘密の恋、って不倫ね。不倫かーあちゃーって。

始まりのシーンでは部屋でいちゃつくただの男女だったので、独身の教授と教え子の歳の差恋愛を予想していたけれど、訃報を聞いてエディンバラへ発ち、彼の自宅前で家族を見てしまうシーンで不倫に気づいた。

冷静に考えて、不倫相手の自宅前で立ち尽くす女って怖い。
それで教授の娘と会って話してみたら、

「あなたのことは憎んでいるけれど、正直羨ましい」と。ここで妻じゃなくて娘なのがポイントよ。妻だったらそれこそ正気でいられないもの。

 

二人で過ごしたイタリアのサン・ジュリオ島の別荘は素敵だった。本島から手漕ぎボートで島に渡るんだけど、そういうところロマンチック。晴れていたら素敵なバカンスだろうなあ。ただこの映画は基本的にくもり。全体的に灰色がかっていてでお世辞にも明るいとは言えない。が、完全に暗いわけでもない。グレーがかった画面に、教授から届く真っ赤な封筒が綺麗に映えるんだなこれが。

 

禁断の関係だとわかっているのに、一生のうちにこんな風に想い/想われる人に巡り合えたなんてちょっぴり羨ましい。フィクションだとわかっているけれど、死後も手紙やメールが届くなんてロマンチック。

しかし憧れキラキラロマンチックで終わらないのがトルナトーレ。


教授からの手紙が永遠には届き続けることはないとエイミーはわかっていただろう。

観ているこちらも薄々気づいている。どれだけ手紙が届いたって恋人にはもう会えない。彼からのメッセージは届くがこちらの想いが彼に届くことはあり得ない。

いつも冷静で優しさに溢れた教授が取り乱してしまうシーンや、エイミーが怒りをぶつけるシーンは自然に涙が出てくる。素敵だ…ロマンチック…で見ていたのが、後半になるにつれて段々心臓をきゅっとつかまれるように切なくなる展開。

一方通行の恋愛ほど苦しいものはない。

わりかし最初の方でどういう結末か予想できるが、繊細な心情描写とエディンバラとサン・ジュリオ島の街並みの美しさからは決して目を離せない。教授の詩的表現は、一度は言われてみたいほどロマンチック。

「ショックと喜びと寂しさと怒り」

色んな感情がごちゃ混ぜになって、それでも誰かを愛した事実は変わらない。

静かにドラマティックな映画だった。

しんみりしたラブストーリー、心がきゅっとするような恋愛ものが見たいときにおすすめの映画。