駅周辺がほんのりとね。
電車を降りるとごま油が香ってくる。今の季節はむわんとした熱気と一緒にやってくる。三重に引っ越す前は「なんかごま油のにおいするね?」だったのに、今はもう「四日市に着いたな」と感じるようになってきた。
ドライブデートで、この辺には九鬼産業というごま油工場があることを当時恋人だった夫に教えてもらった。ちょうどJR四日市駅の裏、23号線沿い。ちょっと足を延ばして伊勢志摩まで行った帰り道とか、うとうとしてるとこの香りに起こされる。
その場所特有のにおいってのは思い出と繋がっている。
畳や線香の香りはおばあちゃん家を思い出すし、今目の前にある財布なんか嗅いでみると買ったときの記憶が甦る。
大学の短期語学研修プログラムで、フランスのボルドーに行ったときに買ったがま口の財布。一緒に来た生徒や学校の空気感が当時の私には居心地が悪くて、授業後のアクティビティは全断りしていた。今振り返ると感じの悪い大学生だったなあ。当然暇なので自由時間に一人でトラムに乗って、ダウンタウンを散歩していた時にたまたま入ってみたお店。妙齢のマダムが一人でやってる雑貨屋さんで、何色もある中から選んだのがこのオレンジのがま口財布だった。革がとても柔らかくて初めから手にしっくり馴染んでいたな。買うときは確か、ボンジュールとメルシーくらいしか言えなかったけれど、緊張していた空気ごと今でも覚えている。
買った翌日くらいにもう一つ色違いで欲しくなり、もう一度街へ行ったがお店は見つからず。2週間の研修が終了して、帰国後もGoogleマップのストリートビューで一本一本通りを歩いてみたけれどやはり見つからず。この時からGoogleマップのロケーション履歴を常時オンにしている。(充電の減りが尋常でない)
見つけられないとますます欲しくなるもので、数年経った後もストリートビューで歩いてみたり、似たようなデザインを探してみるけれど見つからない。もうこうなったらこの財布を大事に、大事にするしかないじゃない。他に素敵な財布も見つからないしね。
でも今日久しぶりにボルドーでのことを思い出したけれど、もし今後ボルドーへ再訪することがあっても、あの財布を買った雑貨屋さんを探そうとは不思議と思わなくなったな。こう、執着がはがれたのか、今まで「気にしてないし」と意識すればするほど意識してしまっていた別れたての恋人のことなんて新しい恋人の存在でポロっと綺麗に忘れてた、みたいな。私はこの年季の入った財布を大事にしますのでどうかお元気で、みたいな。
そういうわけで、9年前に買った9ユーロのがま口、まだまだ現役で使っている。
●おまけ
ホーチミン空港はナンプラーの香りがするし、パリの地下鉄はトイレのにおいがする。日本に帰国すると醤油の香りがするらしい。私には日本の香りは分からない。